「一人親方は個人事業主だから、安全管理は自己責任」建設業界では、こうした考え方が長く根付いてきました。
しかし、近年の労働安全衛生法令の改正により、その考え方は大きく変わりつつあります。
2023年4月から、一人親方など労働者以外の人に対する安全衛生上の保護措置が段階的に拡大され、2025年・2026年にも新たな改正が施行されました。さらに、2027年には一人親方自身の安全衛生対策に関する新たな義務も予定されています。
これにより、元請や作業を発注する事業者には、これまで以上に適切な安全管理が求められるようになりました。
この記事では、労働安全衛生法改正の内容を整理するとともに、元請と一人親方、それぞれに求められる義務や責任について、わかりやすく解説します。
※本記事は2026年10月時点の法令・公表資料をもとに作成しています。具体的な義務の有無は事業者の立場や作業内容等によって異なります。

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労働安全衛生法の改正で一人親方はどう変わった?
そもそも労働安全衛生法とは?
労働安全衛生法とは、職場で働く人の安全と健康を守り、快適な職場環境をつくることを目的とした法律です。
建設現場では、高所からの墜落や転落、建設機械への巻き込まれ、粉じんの吸入など、さまざまな危険が存在します。
こうした事故や健康被害を防ぐため、事業者には危険防止措置や安全衛生教育などが義務付けられています。
ただし、従来の労働安全衛生法は、主に会社に雇用されている「労働者」の安全と健康の確保を中心としていました。
そのため、労働者を使用せず、自ら仕事を請け負う一人親方については、労働者と同じ保護が必ずしも及んでいませんでした。
なぜ一人親方も保護対象になったのか?
改正のきっかけの一つが、2021年5月17日に出された、いわゆる「建設アスベスト訴訟」の最高裁判決です。この裁判では、建設作業に従事していた一人親方などの健康被害に関して、国の規制権限の不行使が問題となりました。
最高裁は、労働安全衛生法第22条に基づく規制について、労働者以外の作業従事者も保護の対象に含まれるとの判断を示しました。
これを受け、厚生労働省は関係省令の見直しを進め、2023年4月から一人親方等に対する一定の保護措置を事業者に義務付けました。
その後も対象となる危険や義務の範囲は段階的に拡大されています。
重要なのは、雇用契約の有無にかかわらず、同じ現場で危険にさらされる人の安全を守る必要があるという考え方です。(参考:厚生労働省|一人親方等の安全衛生対策について)
【2026年最新】労働安全衛生法の主な改正内容
一人親方に関する安全衛生対策は、2023年の省令改正から始まり、現在も段階的に整備されています。
まずは、これまでの改正内容と今後の予定を整理しましょう。
| 施行時期 | 主な改正内容 |
|---|---|
| 2023年4月 | 危険有害作業に関する一人親方等への保護措置の拡大 |
| 2025年4月 | 危険箇所への立入禁止や退避等の措置の拡大 |
| 2026年4月 | 注文者等が講ずべき安全衛生措置などの拡充 |
| 2027年1月予定 | 個人事業者等の業務上災害報告制度の施行 |
| 2027年4月予定 | 個人事業者自身の安全衛生措置や混在作業での措置の拡充 |
2023年4月|危険有害作業に関する保護措置の拡大
2023年4月1日、労働安全衛生法第22条に関係する省令の改正が施行されました。
この改正により、一定の危険有害作業を行う事業者には、次の人々に対する保護措置が求められるようになりました。
- 作業の一部を請け負わせる一人親方など
- 同じ場所で作業する労働者以外の人
例えば、有害物質を取り扱う作業では、請負人に対する設備利用への配慮や、必要な作業方法・保護具に関する周知などが求められます。
これは単なる努力目標ではなく、関係省令で定められた措置について、事業者に法的義務が課されたものです。
2025年4月|立入禁止や退避措置の対象拡大
2025年4月1日からは、作業場所に起因する危険に関する保護措置も拡大されました。
例えば、危険箇所への立入禁止や、危険が生じた際の退避などについて、一人親方や同じ場所にいる労働者以外の人にも一定の保護措置が必要となりました。
従来は、危険な場所に立ち入らせない措置が主に自社の労働者を対象としていた場合でも、改正後は対象となる人の範囲が広がっています。
建設現場では、墜落や飛来・落下物などの危険があるため、関係者間で危険箇所や作業範囲を共有することが重要です。
2026年4月|注文者等が講ずべき措置の拡充
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法では、個人事業者等を安全衛生上の保護対象や義務の主体として位置付けるための見直しが進められています。
2026年4月からは、注文者等が講ずべき安全衛生措置に関する規定が施行されました。
一人親方などに仕事を発注する場合、従来の安全衛生管理に加え、法令で定められた注文者等の措置を適切に実施する必要があります。
ただし、元請であれば、すべての安全管理責任を無条件に負うという意味ではありません。
実際の義務は、注文者・元方事業者・事業者などの法的な立場や、作業の内容によって異なります。
2027年施行予定|一人親方自身への義務も拡大
さらに、2027年には次の改正が予定されています。
2027年1月1日施行予定
個人事業者等が業務中に一定の災害に遭った場合、その災害を把握・報告する仕組みが整備されます。
2027年4月1日施行予定
個人事業者等自身が講ずべき安全衛生措置や、業種を問わない混在作業における措置などが拡充されます。
これらの改正は、一人親方を安全衛生上の保護対象とするだけでなく、本人にも一定の安全対策を求める方向への変化といえます。
なお、2027年施行予定の規定は、2026年10月時点では未施行です。(参考:厚生労働省|個人事業者等の安全衛生対策について)
元請にはどんな安全措置が義務付けられる?
法改正によって一人親方に対する保護が拡大しましたが、具体的にどのような安全措置が必要なのでしょうか?
ここでは建設現場で関係する主な例を紹介します。
一人親方に作業を請け負わせる場合
2023年の省令改正では、特定の危険有害作業の一部を請負人に行わせる事業者に対し、一定の配慮や周知が義務付けられました。
例えば、有害物質が発生する作業場で、事業者が局所排気装置を設置している場合です。
請負人だけが作業をする場合でも、必要に応じて装置を稼働させたり、請負人が使用できるようにしたりするなど、定められた配慮が必要です。
局所排気装置とは、作業中に発生する粉じんや有害な蒸気などを、発生源の近くで吸引・排出する設備のことで、作業者が有害物質を吸い込むリスクを減らす役割があります。
なお、作業の全部を請け負わせた場合には、2023年改正による当該の配慮・周知義務が生じないケースもあります。ただし、別の法令上の義務までなくなるわけではありません。
同じ場所で働く一人親方への保護措置
今回の改正で特に重要なのが、直接の契約関係がない人にも一定の保護措置が及ぶという点です。
例えば、建設現場には次のような人が出入りします。
- 元請会社の従業員
- 一次・二次下請の従業員
- 一人親方
- 資材搬入業者
- 現場内で業務を行うその他の関係者
法令で定められた保護措置の中には、直接雇用している労働者だけでなく、同じ場所で作業する労働者以外の人にも適用されるものがあります。
つまり、雇用関係や直接の請負契約がないという理由だけで、必要な安全措置の対象から除外できるとは限りません。
作業方法や保護具の必要性を周知する
危険有害作業では、安全な作業方法や必要な保護具についての周知も重要です。
例えば、次のような作業が挙げられます。
- アスベスト等を取り扱う作業
- 粉じんが発生する作業
- 有機溶剤を使用する作業
- その他、特別な作業方法や保護具に関する規定がある作業
作業内容に応じて、法令で定められた作業方法や保護具の必要性などを請負人へ伝える必要があります。
ただし、周知すべき事項や措置の内容は作業ごとに異なります。
また、周知義務があることと、請負人に対して保護具を直接支給する義務があることは、必ずしも同じではありません。
元請や事業者は、作業内容に応じた法令上の義務を確認し、適切な対応を行うことが大切です。(参考:厚生労働省|労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行等について(令和4年4月15日))
重層請負では誰が安全管理の責任を負う?
建設業では、元請から一次下請、一次下請から二次下請へと仕事が発注される「重層請負構造」が一般的に見られます。
では、このような現場では誰が安全管理の責任を負うのでしょうか。
元請・一次下請・二次下請の関係
例えば、次のような請負関係を考えてみましょう。

この場合、一人親方と直接契約しているのは一次・二次下請会社です。
契約関係だけで安全管理上の義務がすべて決まるわけではありませんが
労働安全衛生法では、それぞれの事業者が負う義務に加え、一定の要件を満たす元方事業者などに、関係請負人との連絡調整や災害防止のための措置が求められています。
そのため、元請・下請・一人親方が、それぞれの立場に応じた安全対策を実施する必要があります。
元方事業者と各事業者の役割
元方事業者とは、一定の請負関係のもとで、同じ場所における仕事の一部を関係請負人に請け負わせている事業者などをいいます。
建設業では、法律上の要件に該当する特定元方事業者に対し、混在作業による労働災害を防止するため、作業間の連絡調整や協議組織の設置・運営などが義務付けられています。
一方、下請会社にも自社の労働者に対する安全衛生上の義務があります。
重要なのは、「元請だけが責任を負う」「一人親方だからすべて自己責任」という二者択一ではないということです。
なお、2026年の改正と2027年施行予定の改正により、個人事業者等が関わる安全衛生管理の仕組みはさらに整備されます。
各事業者が自らの責任範囲を把握し、現場全体で安全対策を進めることが求められます。
一人親方自身が取り組むべき安全対策
ここまでは元請や事業者の義務を中心に説明しました。
しかし、一人親方自身が安全に作業するための取り組みも欠かせません。
特に建設業では、作業中の小さな判断ミスが重大な事故につながる可能性があります。
まずはご加入相談から
現場の安全ルールと作業手順を確認する
現場に入る際は、作業場所や作業内容に応じた安全ルールを必ず確認しましょう。
例えば、高所作業や重機を使った作業では、周囲の作業者との連携が重要です。
作業範囲や危険箇所、緊急時の連絡方法などを把握しておくことで、事故のリスクを減らすことにつながります。
適切な保護具を使用する
建設現場では、作業内容に応じてさまざまな保護具が使用されます。
- 保護帽(ヘルメット)
- 安全靴
- 保護手袋
- 防じんマスク
- 保護眼鏡
- 墜落制止用器具
例えば、高所で墜落の危険がある作業では、法令や作業条件に応じた墜落防止措置が必要です。
すべての現場・作業で同じ保護具が一律に義務付けられるわけではありませんが作業の危険性を確認し、適切な保護具を正しく使用することが大切です。
危険な作業は無理に進めない
作業中に危険を感じた場合は、無理に作業を続けず、元請や関係者へ相談しましょう。
特に、予定と異なる作業方法を求められた場合や、安全設備に不備がある場合には注意が必要です。
また、2027年4月には個人事業者等自身が講ずべき安全衛生措置に関する改正も予定されています。
今後は、一人親方自身が安全衛生に関する知識を身に付け、適切な措置を講じることが、これまで以上に重要になります。
労働安全衛生法に違反するとどうなる?
労働安全衛生法に基づく安全措置を怠った場合、違反した規定に応じて罰則などの対象となる可能性があります。
また、事故が発生した場合には、法令違反の有無とは別に、損害賠償責任が問題となることもあります。
法令違反に対する罰則
労働安全衛生法には、安全措置義務などに違反した場合の罰則が定められており、違反した条項によって罰則の内容は異なり、拘禁刑や罰金が科される場合があります。
ただし、すべての安全衛生上の義務違反に同じ罰則が適用されるわけではありません。具体的な違反内容や適用条項によって判断される点に注意が必要です。
労災事故が発生した場合の損害賠償責任
安全対策が不十分な現場で事故が発生した場合、民事上の損害賠償責任が問題になる可能性があります。例えば、危険な作業環境を放置していたことなどが事故の原因となった場合です。
ただし、事故が発生したからといって、必ず元請に損害賠償責任が生じるわけではありません。契約関係、現場の管理状況、事故の原因など、個別の事情によって判断されます。
労働安全衛生法上の義務と、民事上の損害賠償責任は区別して考える必要があります。

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安全対策だけでは防げない事故に備える|一人親方労災保険
どれだけ安全対策を徹底していても、建設現場での事故の可能性を完全になくすことはできません。
事故を未然に防ぐことと、万が一の事故に備えることの両方が重要です。
一人親方は労災保険に加入できる?
通常の労災保険は、原則として事業主に雇用される労働者を対象としていますが、一人親方は原則として労働者に該当しないため、通常の労災保険の対象にはなりません。
しかし、厚生労働省の定める労災保険の特別加入制度を利用すれば、一定の要件のもとで労災保険に加入することができます。特別加入は、法律上すべての一人親方に一律に義務付けられているものではありません。
ただし、建設現場によっては、元請などから入場条件として特別加入を求められることがあります。(参考:厚生労働省|特別加入制度とは何ですか)
特別加入で受けられる主な保険給付
建設業の一人親方が特別加入し、対象となる業務災害や通勤災害に遭った場合、所定の条件に応じて保険給付を受けられます。
主な給付は次のとおりです。
| 給付の種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 療養(補償)等給付 | 対象となるケガや病気の治療 |
| 休業(補償)等給付 | 療養のため働けない場合の所得補償 |
| 障害(補償)等給付 | 障害が残った場合の給付 |
| 遺族(補償)等給付 | 死亡した場合の遺族への給付 |
| 葬祭料等 | 葬祭に関する給付 |
なお、給付にはそれぞれ支給要件があり、すべての事故や病気が補償対象になるわけではありません。
また、特別加入者の休業(補償)等給付は、原則として休業4日目から対象となります。
労災保険に加入していても元請の責任はなくならない
ここで注意したいのが、労災保険による給付と損害賠償責任の違いです。
一人親方が労災保険に特別加入していたとしても、それだけで元請などの民事上の責任がすべて免除されるわけではありません。
元請等に損害賠償責任が認められるかどうかは、事故の原因や法的な責任関係などによって判断されます。
労災保険は事故に遭った本人や家族の生活を支える制度であり、元請が負う可能性のある責任とは別の問題です。
安全対策は事故を防ぐために、労災保険は万が一の事故に備えるために必要なものです。(参考:厚生労働省|労災補償・特別加入制度)
⑧ よくある質問(FAQ)
- Q一人親方にも労働安全衛生法は適用されますか?
- A
はい。2023年以降の法令改正により、一人親方等も一定の安全衛生上の保護措置の対象となっています。ただし、労働者向けのすべての規定が一律に適用されるわけではありません。
- Q一人親方が現場でケガをしたら元請の責任ですか?
- A
事故が起きたという理由だけで、必ず元請の責任になるわけではありません。安全措置の実施状況や事故の原因、契約関係などに応じて、法的責任が判断されます。
- Q一人親方だけで作業する場合も安全措置は必要ですか?
- A
作業内容などによっては必要です。例えば、事業者が設置した局所排気装置を、請負人だけが作業する場合にも利用できるよう配慮することが求められるケースがあります。
- Q労働安全衛生法の改正で労災保険への加入は義務になりましたか?
- A
いいえ。今回の安全衛生法令の改正によって、一人親方の労災保険特別加入が一律に義務化されたわけではありません。ただし、元請等が現場への入場条件として加入を求める場合があります。
まとめ|一人親方も元請も安全を守る意識が大切
かつて建設業界では「ケガと弁当は自分持ち」という言葉が使われてきました。しかし、働く人の安全を守る仕組みは時代とともに変化しています。
2023年から段階的に進められている労働安全衛生法令の改正によって、これまで十分な保護が届きにくかった一人親方にも、安全衛生上の保護措置が広がっています。
そして、2027年には一人親方自身に関係する新たな義務も施行される予定です。
元請と一人親方がそれぞれの役割を理解し、協力して事故を防ぐことが、これからの建設現場ではますます重要になります。
また、安全対策を徹底していても、事故のリスクをゼロにすることはできません。
万が一のケガや病気に備えて、労災保険の特別加入も検討しておきましょう。

