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一人親方という名称、そしてその定義について「私は一人親方なのか個人事業主なのか」という問い合わせをいただくことがあります。
ここでは一人親方とはそもそも何か、個人事業主と一人親方の違いは何か、法人の社長との違いを説明していきましょう。

建設業の職階

皆様が一般的に使う「職人さん」とい言葉には伝統的に職階があります。
それは「見習い→職人→一人親方→親方」です。
見習いとは、読んで字ののごとく職人になるために修行をしている最中の人のこと。
建設業種で分かりやすいのが「大工工事業」の方ですので説明していきましょう。

「私は大工になる」と決めた時にまず、親方や職人へ相談をします。(現代では専門学校や通常の学校)
すると親方は、一人親方や職人へ弟子入りを勧めます。
これを「大工見習い・見習い大工」と呼んでいました。
大工見習いが大工職人になるためには、約10年はかかると言われています。
それは、大工という仕事は建築に関する技法がたくさんあり、また計算処理の力も必要で、熟練した腕と能力が必要だからでしょう。
大工見習い(見習い大工)が職人(大工職人)になると、その技法や技術をもとに、一人親方や親方から仕事をもらい自分の能力を使い、ものを作り出すことができるようになります。

職人とは

見習いの時代を経て自分の力で物を作り出すことができ、その巧みな技法や熟練した技術、能力を身に着けて独り立ち(自分一人でお金を稼ぎだすことができる)した者を表します。
現代ではすぐに「職人」と名乗る方もいらっしゃいますが、古来職人は、突発的な変更や修正などにも対応し、自分の力で完成へと導く力があります。
つまり腕や経験だけではなく、様々な技巧をつかって応用対応もでき、さらに完成度の高いものを生み出す力があります。

一人親方と親方の違い

どちらも「職人」には変わりありませんが、大きな違いとして
職人が人を雇い入れ(職人や見習いなど)法人なり(会社を設立)したり、組織化した形態をとったときは、その職人は【親方】と言われます。
反対に、ほかの職人や見習いを雇い入れせず、いいかえれば一匹オオカミ的な動きをすることを選んだ時には【一人親方】と言われます。
雇い入れとは、時間で制約を与えられ、時間内の労働を行い、時間労働の対価として賃金を受け取る方を常時雇うことをいいます。

親方は職人でありながら会社や組織の代表者であり、その組織の中の常時雇用している職人たちを纏め、組織の力でものを作りだしていきます。

一人親方は、職人として自分一人の力を信じ仕事をこなしていく一方、時として家族や仕事仲間の力も借りながら仕事を完成していく力を必要とします。

職人の分業制

建設に携わる仕事はその内容によって仕事を分け、職人たちの技巧を使い、一つのものを作り上げていきます。

人形職人たちの世界を見ていきましょう。

ひな人形や五月人形。

これら一つを作り上げるのには様々な職人がその技を競い合い一つのものを作り上げていきます。
胴を作るところから始まり、頭師、織物師、小道具師、手足師、髪付師(結髪師)、着付師….
人形の製法によってその職人の仕事は様々です。

頭師(かしら)とは、人形のお顔、頭から首までを制作する方です。
織物師(おりもの)とは、着物を選んだり着物を作る方です。
小道具師(こどうぐ)とは、人形が持っている道具や人形の台やケース、飾りを全般的に請け負う方です。
手足師(てあし)とは、読んで字のごとく手足を専門に作る方です。
髪付師・結髪師(かみつけ・けっぱつ)とは、頭に髪を付けたり結ったりする専門の方です。
着付師(きつけ)とは、織物師が選んだ記事や作った着物を人形に着せる専門の方です。

このように、人形一体作り上げるのには、これだけの職人が技を競い合い協力し合って一体を作り上げるわけです。
ここには記載されていませんが、もちろん人形の胴を作る専門の職人もいらっしゃいます。

建設も同様に様々な職人がいて、はじめて一つのものを完成させることができます。

土木工事業・大工工事業・電気工事業・鋼構造物工事業・とび・土工工事業・左官工事業・屋根工事業・管工事業・塗装工事業・水道工事業・・・・

建物をひとつ作り上げるためには、様々な職人がその腕を競って、また助け合って完成させていきます。
職人の世界は時として荒く厳しいというイメージを持っている方が多いでしょう。
そのイメージはすべてではありませんが間違えではありません。
それは、仕事中にちょっとした油断でケガをするからです。
ケガならまだしも「死」にもつながる大変な仕事なので、声を掛け合って、それでも危ないことをしようとする時には、怒鳴り声出てしまうのでしょう。

現代ではそこまで荒くはなく、優しく丁寧に仕事を教えてくれたり声をかけてくれます。
ただし仕事中に少しでも気を抜けば、大事故につながる可能性のある仕事です。

業務災害の申請も多いのもそのためでしょう。

それでも建設系の職人になりたいという方はいらっしゃいます。

その理由は

職人みんなの力を合わせ建物を完成させたときの喜びは、何事にも代えがたい達成感と満足感があるからとお話を聞いています。

一人親方の定義

親方の由来がわかればその定義は簡単です。
法律に定められてはいますが、法律は解釈といわれるように、理解するのが大変難しいですよね。

一人親方とは
職人である一人親方は、組織や時間や誰かに縛られることなく、雇われることもなく、自分の腕一本(技や経験など)でその仕事を完成させる人。
時には仕事仲間(他の職人)と力を合わせ、ひとつのものを完成させ、その完成高を依頼主や元請け業者からいただいて、生活の生業としているものです。
決して雇い入れはしません。
一人でも「雇い入れ」したとき。
つまり時間で拘束し、完成高ではなく時間拘束労働の対価として月の給与として支払い、社会保険へ加入させる「人間」を雇用したときには、一人親方ではなくなります。

一人親方という立場の方は、仕事は自分の意思で決められ、自由に仕事を行うことができます。
ただし
自由ということは、一般的な決められた休みや労働時間も関係ありません。
日でいえば「365日」時間でいえば「24時間」
日も時間も関係なく、時には徹夜もあり祝祭日にも仕事をすることなど普通にあります。
工期や依頼された仕事が完了するまでは、時間に関係なくやり遂げなければなりません。
自由には必ずその代償として「責任」がついてきます。
それでも一人親方がいらっしゃる理由は
時代がいくら変わっても、職人として生きていくかたが多いことと、なくてはならない存在だからでしょう。

一人親方と個人事業主の違い

前に述べたように一人親方は誰に雇われることも、反対に雇うこともない自分の技術力を提供し、その対価として元請けや依頼主から完成高をもらい生活の糧とする方です。

では個人事業と何が違うのか?

簡単に言えば「同じ」です。

ですが、労災保険上の話では違いが出ます。

一人親方の業態であった方が、一人でも雇った場合は一人親方ではなく「個人事業主」になり、一人親方の労災保険からは脱退し、個人事業主の労災保険へ加入しなければなりません。

一人親方でも雇用することは可能ですが、一人親方の労災保険を継続加入するには要件があります。

年間100日未満の方であれば、雇う側の一人親方はそのまま一人親方の労災保険に継続加入が可能です。

反対に、年間100日以上の方であった場合は、雇う側の一人親方は、一人親方の労災保険から脱退しなければならなくなります。

他の記事で「週20時間以内であれば大丈夫」と書いてあるところがありますが、それは「雇用保険の強制加入」のことで、一人親方でいられるかどうかの要件ではありませんのでご注意ください。

また人数も「3名までであれば大丈夫」というのも全く関係ありません。

アルバイトやパートでも、年間100日以上の労働をする方を従業員として迎えた時は、その時点で一人親方ではなくなり、労災保険も個人事業主の労災保険へ切り替えが必要になります。

一人親方と法人代表との違い

法人とは、法律で定められた人「組織」のことを表します。

当然ながら法人名(会社名)が定められ、法務局で登記する手続きが必要となります。
例えば株式会社や合同会社、一般社団法人などです。

そして、その法人には必ず発起人の代表取締役が必要です。

一人親方や個人事業主の場合は「屋号」を付けて「代表」とすることが一般的です。

法人の場合は「代表取締役や社長」となり、一人親方や個人事業主の場合は「代表」となります。

労災保険の話になると、法人の社長でも一人社長(雇用している人がいない)の場合は、一人親方の労災保険へ加入することができます。

しかし、一人親方や個人事業主の場合と同じく年間100日以上の労働をする方を雇い入れした場合は、一人親方の労災保険から脱退しなければならなくなります。

まとめ

今回はここでは法的な難しい話は省略しますが、まとめると
自由であることを望むなら「一人親方」
時間に縛られても安定を求めるならば「雇われ職人」
職人でありながら、組織を構築しその組織力を最大限にいかしていくならば「親方」
いずれにせよ、最終的にはすべて「自分」が決めることで、誰かにきめられるものではありません。
その立場になるには時間もかかります。
自分の人生ですので自分できめていくしかないのでしょうね。